(これは〔好奇心は災いの元・Couldn't put Humpty together again〕の続きです)










誰か



言ってくれ






〔リボンの様にほどけて消えて〕





全てが愛おしいと思うのはある意味心理だ。
何故なら嫌悪というものはそのフィルターを通すことによって多く、損をする。
敵をつくるも友をつくるもまずは自分の目線だ。
笑顔は次の笑顔を招き入れる。愛を持てばそれは自然なこと。
俗っぽい嫌悪も、高が知れたプライドも、
愛で覆ってしまえばなんてことは無い。

それはある種自己防衛と言ったって間違いな訳じゃない。
結局は傷つきたくない。それももちろん根底に潜んでいるのだから。
全てを許すもののもとに跪き、こうべをたれて祈りを捧げる。
ただ無心に有漏の身を省みて、規律を守り清く正しく。
自由なんて些細なことだ。恙無く意義有る此の生活に



欲など在る筈が無いのだから










貼り付けた笑顔は我ながらお粗末なものだった。

(…なんだって…?)

この小さな少女は何を言い出すのか。
塞込んでいた彼女は雨粒の重さにすら耐えられないかの如く、
沈んでいく様を通り過ぎる程私は愚鈍な神父でもない。


だから言ってこれはなんだ
彼女は今なんと言った?


「あなたが、好きです」


彼女は目を逸らさない。


「神様を裏切ってしまう私を軽蔑しますか」


何を知りたい


「カーターさん」













それはいけない!

















目線はすでに交わっていなかった。
立ち上がった際耳の奥で聞こえた大きな音は、きっと自分が座っていた椅子でも倒れたのだ。
だがそれが一体なんだ。


「傘を、」


今一切の音を耳に入れるわけにはいかない


「傘を、貸しましょうね」


そうだ 確固たる意思を持って


「此の教会では少々寒い」


眼前の渦を回避しなければいけない。

黒く蜷局巻く紫色を帯びた突風はどこか感じたものがあった。
ゆらりと揺らぐ自らの影にさえ飛び込んでしまいたい衝動だ。

崩れるな。所詮私は神父でしかない。



「要りません」

私の裾を引くものは

「そんなのものは要りません」

冷えていたはずの暖かい手



「お願い。逃げないで」
「…」
「良い返事を期待して話したわけじゃないんです」
「…」
「嘘でも良いんです。一度きりで良い。だから」


「後生ですから、神様に関わり無い貴方の答えを聞かせてください」


雨は止んだのか?何も聞こえない。
誰もいないのだろうか。誰でも良いから今来てくれないか。

偽りを上手く言えるはずも無いこのどうしようもない私の前に。

「…カーターさん?」
「………ぃ」
「え?」
「離してください」

その体温を振り払う。
そうだ。そのまま迷いすら振り切ってしまえ。
自分に迷う余裕なんてものはあってはならない。

決意し振り返ってみても、彼女は目を反らしはしない。
じっと覗き込まれれば言葉が喉に張り付いてしまう。
思わず本音を吐きそうだ。

「あなたは素敵な女性です。神父から見ても、ね。」

そうだそのまま崩さずに 規律を守り清く正しく

「それでも私は神父です。それ以上は有り得ない」


言い切った。










「…それが、あなたの、本音なんですよね」

沈黙を破ったのは彼女の言葉だった。

「そうです。本音です」

これが本音だ。そう言い聞かせる。
それしか私には術が見つからない。

「…わかりました。答えて下さって…有り難う御座います…」
「…いいえ…」
「…それでも私にも意地があるんです」
「…え」


「私があなたを好きなことは変わりませんから」


彼女の笑顔は 絶望的なほど輝いていた。



何故だ
何故そんなことを言ってられる
何故私からあんな拒絶の言葉を吐かれて笑っている
何故ずっと目を反らさない


ああ頼むから突き放してくれ


「困ります」
「…ぇ…」
「好きでいられても、困るんです」
「…か、カーター、さ」
「お願いです。止めてください」

彼女が離れていってもいい
もうこれ以上ないくらいに傷付けよう
もう私の顔も見たくないと言ってくれれば
もうこの教会にも来ることはないと言ってくれれば
私の全てを否定して くれれば

「…お断りします」


「……何故」
「それは、私個人の感情だからです」
「ですが」
「カーターさん。」
「…なんでしょう」
「私を、見くびらないでください」
「なに、」
「あなたが何を言おうと、神様が私を断罪しようと」


「これは確固たる私の意志です。」





西日が 差した



あなたの金髪は  綺麗なオレンジ色





「カーターさん。あなたが好き。これまでも、これからもずっとです」









ああ  なんてことだ


















初めて会ったのはこの講堂だった。
そう、今日のように西日が差していて
暖かい風も吹いていた。
初めて会った貴女の笑顔も春のよう
花のような笑顔を咲かせ微笑んだ。
通ってきてくれるようになるなんて夢にも思ってなくて
なんだか困惑した。
彼女の訪問に喜ぶ度に
自分の欲に負い目を感じた。
閑散とした講堂で待つ自分は
何時か彼女を待ち望んでいた。

矛盾を考える度に苛立つ。
明白なことだ。そう自分が神父でなければ。
無償の愛が霞んで見える。
何が清く正しく。慎ましさを私は何処においてきた。

今私の意識に存在するものは、
神に影従することでもなければ、
全ての人の幸福でもない。




唯彼女が愛しくてしょうがなかった






それを押さえて

堪えて

黒い渦すら跨いできたのに











「、カ、」


耳の後ろから声が聞こえる。
人間冷たいのは表面だけなんですね。
腕に閉じこめればこんなにも暖かい。
髪から感じる花の香りは
何時か貴女と出会った春の日のようだ。











「私は、罪を。」













誰か




言ってくれ





この夢のような悪夢は








確かに覚めることは無いと。

















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長くなった…長くなったよ…!!
やっぱりカーターさん視線は難しいよ!
つーか恥ずかしかったよ!なんだか漫画より恥ずかしいよ!!

うん、結局両思いなんですよ!ね!
でもやっぱり一生懸命振り払おうとするの!

でも、やっぱりね。
何もかもを超越してしまうのが、そう、
愛。…なの…・・・・。・・・の・・・・・・・・。
うっしっ、心臓がっっ、柄にもないこと言うと心臓が!!つる!つってしまう!!

次で終わる!

2006.4.20